いま生きてる人類は
たった7%。
いまこの瞬間、地球には約80億人がいます。多いと思うでしょうか。歴史全体で見ると生きている人間はとんでもない少数派で、標準はむしろ「死んでいること」のほうなのです。
これまで生まれた人類約1,170億人。
米・人口調査局系のPRBが2022年にまとめた推計です。ホモ・サピエンス約20万年分の出生を積み上げた数字で、そのうちいま生きているのは約80億人にすぎません。
すでに死んだ人間は約1,090億人。93%は、もうこの世にいません。言い換えれば、いま生きているあなたは14人に1人の少数派の側にいるのです。
なぜこれほど生まれたのか。理由は単純です。産んでも産んでも死んでいったからです。人類史の大半で 1年に生まれる子は人口1,000人あたり80人前後でした。出生率は45〜50あれば現代では最高水準ですがそれをさらに上回ります。好んで多産だったのではありません。それだけ産まなければ種ごと消えていたのです。
「生きてる人のほうが多い」は一度も正しくない。
どこかで聞いたことがあるかもしれません。「いま生きている人間は、過去に死んだ全人類より多い」と。でもこれは嘘で、一度も正しかったことがありません。
どれくらい外れているのか。SF作家アーサー・C・クラークは1968年に「いま生きている一人ひとりの背後には、30人の亡霊が立っている」と書きました。当時としてはほぼ正確な比です。半世紀後のいまその比は約14:1まで縮みましたが、20世紀以降の人口爆発をもってしても生者が死者を上回った瞬間は人類史に一度も訪れていません。
この数字は半分が科学で半分が想像だ。
人類史の99%以上に人口統計なんて存在しません。氷河期のアフリカで国勢調査をした者はいないのです。だから前提しだいで推計は100億〜120億のあいだで揺れます。「だいたいこの桁」という話で、小数点以下を信じる種類の数字ではありません。
そもそもPRBの計算が使うのは「人類がどれだけの期間いたか」「各時代の平均人口」「その時代の出生率」の3つだけです。死者数は一切使いません。起点は約19万年前の解剖学的現生人類という決め打ちで、ここを前後に動かすだけで総数は数十億単位で変わります。その起点のころ地球上の現生人類はわずか3万人程度だったと見られています。新宿駅の朝ラッシュ1時間分にも満たない人数から、1,170億は積み上がったのです。
もうひとつ大事な罠があります。1,170億のうち相当数は、生まれて数日・数週間・数年で死んだ子どもたちです。前近代は生まれた子のおよそ半数が15歳になる前に死にました。狩猟採集社会を平均すると約49%——2人に1人が大人になれなかったのです。
つまり出生時点の平均寿命が30歳前後と低かったのは、大人が30歳で死んだからではありません。この乳児・小児の大量死が平均を押し下げていたからです。子ども期を生き延びた者の多くは50〜60代まで、一部は70代以上まで生きました。「昔の人は10代や20代で死んだ」は誤りで、低い平均寿命は乳児死亡が作る錯覚なのです。
裏返せば、"老人になる"こと自体が人類史ではめったに当たらない賭けでした。高齢者が人口の中で当たり前の存在になったのは、ほぼ20世紀以降のことです。あなたが歳を取れる前提で生きていること自体、歴史的にはかなり新しいのです。
7%は人類史上もっとも高い。
100年前、生者の割合はもっと小さいものでした。20世紀から21世紀の人口爆発がはじめて生者をここまで押し上げたのです。「生きている人間がこんなに多い」状態そのものが、歴史的にはごく最近の異常事態です。
人口がいつ倍々で増えたかを並べると異常さがわかります。10億に達したのが1804年 20億が1927年 40億が1974年そして80億が2022年です。ひとつ前の倍までに123年かかったものが最後はわずか48年でした。この爆発がなければ生者の割合はクラークの時代の約3%前後にとどまっていたはずです。いまの7%はそのほとんどが20世紀以降に積み増された数字です。
PRBの見込みでは2050年に累計は約1,208億人、生者の割合は約8%まで上がります。でもそこで頭打ちです。国連の最新推計(WPP2024)では総人口は2080年代半ば——約2084年の約103億をピークに、その後は減少へ転じます。生者がどれだけ増えても分母の累計は死者を足しながら増え続けます。だから生者の割合は8%前後で天井を打ち、やがて下がっていくのです。生者が多数派になる計算上の日は、来ません。それでも9割は、死者のままです。
人類の標準は死んでいること。生きているのはほんの一瞬の例外だ。
あなたがいま生きてこの文章を読んでいます。そのこと自体が、統計的には例外に属しています。歴史に登場したほぼ全員はもういません。そしていずれ全員が、多数派のいる側へ渡ります。生きているのはほんの少数。それだけは、数字が証明しています。